今週のサマリー
2026年8月に施行された高額療養費制度の第1段階見直しを受け、協会けんぽ等の主要保険者が加入者への周知を本格化させた。中医協と医療保険部会ではOTC類似薬の保険給付見直しと医療情報化の推進方針が同時進行し、次の給付範囲改革の輪郭が浮かび上がった週でもある。千葉県の大雨被害に対する診療報酬特例措置の適用も相まって、制度全体が複数の局面で同時に動いた。
主要トピック
高額療養費の第1段階施行を受け、協会けんぽが周知を本格化
2026年8月施行の高額療養費制度見直し を受け、協会けんぽが加入者向け案内を公開した。月ごとの自己負担限度額の引き上げと年間上限の新設が主な変更点で、2027年8月にはさらに所得区分の細分化が予定されている二段階改正となる。
被用者保険最大の保険者として発信する情報は、事業主・被保険者双方の実務対応の起点となる。
🔗 協会けんぽ: 【制度改正】令和8年8月から高額療養費制度が見直されます
中医協総会でOTC類似薬の保険給付見直しと出産関連検討会が本格始動
2026年8月26日の中医協総会(第655回)では、OTC類似薬の保険給付見直しに関する審議が行われた。市販品と同等の医薬品を保険から切り離す仕組みの制度設計が論点となっており、患者の自己負担に直結する。
また、出産に関する検討会の立ち上げも議題に上り、正常分娩の現物給付化に向けた具体的な制度設計が次のフェーズへ進んだ。費用対効果評価専門組織からの報告も合わせて行われ、給付の重点化を巡る議論が多面的に展開した。
🔗 厚生労働省: 中央社会保険医療協議会 総会 第655回(2026年8月26日)
医療保険部会でOTC類似薬・医療情報化・電子処方箋の三議題を同時審議
2026年8月27日開催の社会保障審議会医療保険部会(第213回)では、OTC類似薬の保険給付見直し、医療情報化推進方針案、電子処方箋の普及・進捗状況が主な議題となった。
OTC類似薬の見直しは中医協の審議とも連動しており、患者自己負担と保険財政への影響について部会レベルでも論点が整理される見通しである。電子処方箋については施行後の課題整理も行われる予定で、医療DXの制度的な推進基盤の確認が同時に進んでいる。
🔗 厚生労働省: 社会保障審議会(医療保険部会)第213回(2026年8月27日)
千葉県大雨被害で被災者向けの診療報酬特例措置を適用
2026年8月13日以降の千葉県を中心とした大雨・水害被害を受け、厚生労働省は保険診療受診および診療報酬算定に関する特例措置を適用した。マイナ保険証・資格確認書の提示が困難な被災者への対応、窓口負担の猶予・免除、診療報酬算定上の弾力的取り扱いが含まれており、医療機関・保険者双方に実務上の即時対応が求められる内容となっている。
災害時の保険診療特例は、通常の運用が前提とする本人確認・資格確認の仕組みを一時的に緩和するものであり、制度の柔軟性が問われる場面でもある。
🔗 GemMed: 2026年8月13日からの千葉県を中心とする大雨被害、保険診療受診や診療報酬算定に関する特例を適用—厚労省
ベースアップ評価料の年次報告書提出が8月に集中、医療機関の対応が急務
厚生労働省は、令和8年度診療報酬改定で新設・拡充されたベースアップ評価料 を算定する医療機関・介護施設等に対し、毎年8月に職員の給与改善状況を示す報告書の提出が必要であることを案内した。
提出期限が8月に集中しており、未提出の場合は評価料の算定要件を満たさなくなる可能性があるため、実務担当者の早急な対応が求められる。
🔗 厚生労働省: 令和8年度診療報酬改定におけるベースアップ評価料等について
追跡中の議題の動向
高額療養費制度見直し(2026年8月第1段階施行)
2026年8月施行を受け、協会けんぽが月額自己負担限度額の引き上げと年間上限新設について加入者向け案内を公開した。
健保法等改正案(OTC類似薬・正常分娩保険適用等)
中医協総会(第655回)と医療保険部会(第213回)の両審議会でOTC類似薬の保険給付見直しが同時並行で審議されており、制度設計の詳細化が進んでいる。
2026年度診療報酬改定(6月1日施行)
ベースアップ評価料の年次報告書提出期限が8月に到来し、厚生労働省が算定要件維持に向けた医療機関への注意喚起を行った。
医療DX推進(電子カルテ標準化・PHR拡充)
医療保険部会(第213回)において医療情報化推進方針案と電子処方箋の普及・進捗状況が議題となり、DX施策の課題整理が進んでいる。
マイナ保険証への完全移行(旧健康保険証廃止)
千葉県大雨被害に伴う特例措置として、マイナ保険証・資格確認書の提示が困難な被災者への弾力的対応が認められた。また、参議院厚生労働委員会の請願審査では従来の健康保険証の復活を求める請願が多数付託されており、移行への反発が引き続き確認されている。
国会審議ウォッチ
※ 国会会議録は確定までに委員会で3〜5週、本会議で1〜2か月のラグがあります。以下は確定済み議事録に基づく回顧です。
2026年7月16日 参議院厚生労働委員会 第19号|特定疾病制度の見直し懸念と高額療養費改正の射程範囲
山内佳菜子委員(立憲民主党)は、高齢者の窓口負担と介護自己負担の引き上げが現役世代にとって家計補填の負担増をもたらす「ブーメラン現象」への懸念を示し、家計全体への影響分析を政府に求めた。
慢性透析患者約34万人が対象となる特定疾病制度の見直しについては、上野厚労大臣が「現時点では考えていない」と明言し、今回の高額療養費見直しの対象外であることを確認した。将来の見直し時には患者団体への確認・協議を求める委員の要請を大臣も認め、OTC類似薬の保険給付見直し を含む給付範囲の変更に際してのプロセスの在り方が論点となった。
🔗 国会会議録検索システム: 特定疾病制度・高額療養費の自己負担見直しと家計負担への影響(参院厚労委)
2026年7月23日 参議院厚生労働委員会 第20号|指定難病外の好酸球性疾患患者が直面する高額自己負担の実態
郡山りょう委員は、重症好酸球性ぜんそく等の患者が使用する生物学的製剤について、健康保険適用後も月約6万円の自己負担が生じる実態を指摘した。当該疾患は指定難病に含まれないため公費医療助成の対象外であり、毎年50万円超の自己負担が生涯続くとの試算が示された。
大坪健康・生活衛生局長は、今回の制度見直しで多数回該当額の維持・年間上限の導入・年収200万円未満の多数回該当額の引き下げ等のセーフティーネット強化を図ったと答弁したが、個別疾患への追加的な公費助成については明言を避けた。
🔗 国会会議録検索システム: 好酸球性疾患患者の高額療養費負担と指定難病外の軽減策(参院厚労委)
2026年7月24日 参議院厚生労働委員会 第21号|保険証復活・OTC類似薬負担廃止など医療保険関連請願が多数付議
2026年7月24日の参議院厚生労働委員会では請願の審査が行われ、従来の健康保険証の復活・継続使用を求める請願、OTC類似薬への追加負担廃止を求める請願、高すぎる国民健康保険料(税)の引き下げを求める請願、国保加入者への傷病手当・出産手当給付制度の確立を求める請願など、多数の医療保険関連請願が付議された。
健康保険証をめぐる請願は件数・件外ともに多く、マイナ保険証への移行に対する反発が根強いことが示された。患者・市民の費用負担に対する関心が保険証廃止・薬の窓口負担増・保険料水準など広範な論点に及んでいることが確認された。
🔗 国会会議録検索システム: 健康保険証復活・国保料引下げ等、医療保険関連請願が多数提出(参院厚労委)
2026年6月19日 衆議院厚生労働委員会 第16号|MFN政策による薬価影響・不妊治療・医科歯科連携の複合審議
本委員会では米国MFN(最恵国待遇)政策による薬価・保険収載への影響が論点となり、薬事承認後60〜90日以内に保険薬価収載が申請されなかった品目数と要因について政府に問いただされた。令和8年度診療報酬改定 に関しては、歯科非標榜病院への歯科訪問診療加算新設や糖尿病患者の歯周病治療情報共有加算の拡充など医科歯科連携強化策が説明された。
小児慢性特定疾病(1型糖尿病)の18歳以降の医療費負担問題についても、高額療養費制度等の既存セーフティーネットでの対応状況が政府から説明されるとともに、治療変更の実態把握に向けた有識者聴取方針が示された。
🔗 国会会議録検索システム: MFN政策による薬価・保険収載への影響と不妊治療・医科歯科連携の診療報酬改定審議(衆院厚労委)
その他の主な動き
- 高額療養費見直しを二段階で実施すると厚労省が説明 🔗 日本医事新報: 高額療養費制度の見直し、26・27年で段階実施 厚労省が説明📌 追跡: 高額療養費制度見直し(2026年8月第1段階施行)
- 制度利用者の約8割が限度額引き上げ対象、受診抑制を約1,070億円と試算 🔗 全国保険医団体連合会: 【高額療養費の限度額引き上げ】制度利用者8割が値上げ 社会保険料の軽減効果は1人年1400円 受診抑制1070億円見込む(2025年12月25日時点の資料)📌 追跡: 高額療養費制度見直し(2026年8月第1段階施行)
- 九州厚生局が令和8年度保険医療機関向け通知を更新(8月14日)🔗 九州厚生局: 保険医療機関等に関する通知について(令和8年度)
- 東北厚生局が薬価基準改正訂正通知等を含む令和8年度医療保険関係通知一覧を更新🔗 東北厚生局: 医療保険関係通知一覧(令和8年度)
編集後記
今週は、8月施行を迎えた高額療養費制度の第1段階見直しが実務フェーズに入り、各保険者の周知対応が表面に出てきた週だった。制度変更の告知という「静かな作業」が、保険者にとっては最も負荷のかかる局面でもある。
中医協と医療保険部会が同じ週にOTC類似薬を論じた動きは、給付範囲の絞り込みが単なる財政論を超えて、「医師が処方する薬と自分で買う薬の境界線をどこに引くか」という本質的な問いに踏み込んできていることを示している。患者・市民の感覚と制度論の間にある溝は、請願の件数からも読み取れる。
千葉県の大雨被害対応は、マイナ保険証への完全移行後の制度が災害時にどこまで柔軟に動けるかを試す場面ともなった。平時の制度設計が非常時にどう機能するかは、今後も注視すべき論点である。
情報収集: Perplexity Sonar API